どうなるミャンマーの大学入学試験

大澤清二 (当協会理事)
大妻女子大学名誉教授 (前副学長)
人間生活文化研究所特別研究員

大学入学試験が抱える深刻な問題

ミャンマーの大学入試はマトリキュレーション試験とよばれ、高校卒業試験と大学入試を兼ねた全国一斉の国家試験である。大学進学希望者は必ず受験しなければならず、地域ごとに合格者の中から、成績順に希望する大学に振り分けられる。このために教育省には試験局が置かれ、例年は2月に1週間をかけて行われる国家的行事を管理している。

試験科目はミャンマー語、数学、英語を必須とし、物理、化学、生物、地理、経済、歴史、選択ミャンマー語の中から3科目を選択する。だが難解な選択ミャンマー語受験者は殆どいない。合計6科目であり、40点以上が合格で、1科目でも40点未満があると不合格となり、次年度に全科目を受験しなおす。95点以上は特に成績優秀者とされて、これは合否判定に大きく貢献する。ところが一度6科目の合計得点によって合格判定が出てしまうと、次年度に再受験することは出来なくなる。そのために、試験期間の前半で失敗したと感じた生徒はその後の試験を放棄するものが続出する。そのために最終日の科目(生物)の受験者数は物理や化学の35%程度に激減している。彼らは自発的に不合格を選び、次年度にかける。この試験はまさに1発勝負の人生をかけた試練である。

各科目は100点満点で合計得点は600点であるが、各大学は粗点をもとに、独自のウエイトをかけて合否判定している。ヤンゴン工科大学では当然理科系科目のウエイトが重い。

最近の不合格者は6割以上にのぼるが、一昨年までは不合格者は高卒資格を得られなかった。一方、合格者は再受験できないので、振り分けられた大学に行くしかない。受験生の大半は志望校を残念して不本意ながら他の大学、学部、通信教育大学に行く。諦めきれない者は大卒資格のためにだけ通信教育を受け、一方で別の手段で希望する実務教育を受ける。非常に効率の悪い選択である。高校に就職課は無いので、試験に失敗した若者の多くが農業や建設作業、あるいは近隣諸国で働くこととなる。マトリキュレーション試験は英国の制度を倣ったもので、選ばれた少数の選良が大学進学することを前提にしている。ミャンマーが民主化し、高度な産業社会に移行するためには、まずこの旧制度を見直す必要があると考える。

ところで、CDMの影響もあって今春の同テストには25%程度の受験生しか受験登録していないと聞く。民主化が進んでいた一昨年までは受験生が90万人にも達していた。残る75%の大量の若者達の将来はどうなるのか。筆者は同国の若者の能力が近隣諸国より低いとは決して思わない。何らかの形で日本への留学が可能となるような方途はないものだろうか。幸い20年度から不合格者にも高校の単位終了証明が出るようになった。一歩前進である。しかしミャンマー社会では、それをマトリキュレーション試験不合格の証明と受け取る向きもある。偏見をなくすには時間がかかりそうである。

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