ヤンゴン日本人学校生徒作品「ミャンマーの絵」
今回は、学年の違う子どもたちの絵が送られてきたので、ひとりひとりについて印象と感想を述べたいと思います。ヤンゴン日本人学校の子どもたちのどの作品からも、ミャンマーという、日本とは異なる環境で学ぶ子どもたちがとても貴重な体験をしているということがよく伝わってきます。


乾さんの作品は、生き物への関心と愛情というものがよく表現されています。フクロウとヤモリだけではなく、着ているワンピースにはかわいい昆虫の模様が描かれています。
近くのものを大きく描くという遠近感の表現はこの年齢ではなかなかむずかしいのですが、指の上に乗せたヤモリはこちらに近づいてきそうで、とてもリアルに描かれています。


小学1年生の前原さんのパゴダの作品からは、たいへん信心深いのミャンマーの人々の心が伝わってきます。パゴダと仏像を美しい黄色で塗っていますが、じっと見ていると、眩しいばかりの金色に輝くミャンマーの寺院の光景が目に浮かんできます。


ご兄弟だと思いますが、小学3年生の前原さんの作品も、仏教が暮らしの中に根付くミャンマーの様子をテーマにしています。
全身をあえて入れずに、お顔を大きく描いたお釈迦様の表情から、慈悲の心につながるやさしさというものが感じられます。


末岡さんのどちらの絵にも遠くにパゴダが描かれているのはミャンマーならではの光景だといえます。サイチョウがベランダにやってくるなんて、日本では考えられないことです。そうした異なる自然風土を子ども時代に体験できることはとてもすばらしいことだといえるでしょう。


乾さんの絵に描かれた、市場で美味しい果物を売る人も買う人も笑顔がとてもすてきです。
大きな虹を背景にした美しいパゴダを見ることができたとは、なんとすばらしいことでしょうか。パゴダの前で静かに祈りを捧げる人々の姿を見ていると、大きな虹が現れるのも不思議なことではないのかもしれません。


小学6年生の大野さんもミャンマー独自の風景をテーマにしていますが、水分をたっぷり含ませて描くのとは異なる、やや厚塗りの水彩画の技法を上手に使いこなしています。グラデーション的な青空や雲の表現がとてもすてきですし、太陽の光を受けて金色に輝くパゴダもよく表現できています。
ヤンゴン日本人学校のご紹介
ヤンゴン日本人学校は、1964年にバンコクに次ぎ、世界2番目の日本人学校として開校しました。国の発展とともに、日本人学校の園児・児童・生徒数も200人程度まで増え、大変にぎやかな学校になっていったのですが、COVID-19 の流行や政変などの影響を受け、現在30人程度まで児童生徒数が減ってしまいました。日本でもミャンマーの不安定な情勢が伝えられ、心配されることもしばしばあります。もちろん、安全を確保するために、ある程度の行動制限をしながら日々生活していますが、そんな中でも現地で生活している子どもたちは、活気にあふれ、毎日笑顔で学習をしたり、遊んだりしています。また、ヤンゴン日本人学校では、この規模だからこそできる教育を大切にし、子どもたち一人ひとりに、日本と同じ内容できめ細かい教育を展開しています。そして、ミャンマーの歴史や文化、施設等を学ぶ現地理解教育や、インターナショナル校との交流や英会話教育による国際交流にも力を入れており、機動力を生かした豊かな教育を推進しています。そのような教育を受けた子どもたちは、日本人としてのアイデンティティーを育みながら、豊かな国際感覚を身に付けています。
日常生活の中では、多くのミャンマー人の方々と触れ合う機会がたくさんあります。ミャンマー人の方々は笑顔に溢れ、子どもたちに寛容で、本当に温かい心をもっている人たちです。様々な制約があるにも関わらず、みなさんが力強く生活しており、その姿を間近で見ながら生活している子どもたちは、無意識のうちに強く明るく生き抜くことの大切さを感じ取ってくれているのではないかと思っています。
このように、このヤンゴンで力をつけた子どもたちが、日本だけでなく、世界のいろいろな場所に進学し、さらなる力をつけていこうと今頑張ってくれていることが、日本人学校職員としての喜びです。また、今後ミャンマーに暮らす人々が、より幸せな生活を送ることができるようになり、一層日本とミャンマーの友好関係が深くなっていくことを願ってやみません。
ヤンゴン日本人学校 教諭 乾 貴之
●正式名称:在ミャンマー日本国大使館附属ヤンゴン日本人学校
●住 所:No.1 Thantaman Road,Dagon Township,Yangon,Myanmar




金田 卓也 (かねだ たくや) プロフィール

大妻女子大学教授
1955年栃木県生まれ。
東京藝術大学大学院博士課程修了(学術博士) 専門は多元文化的芸術教育。ネパールを中心に発展途上国における芸術教育についての研究を続けると共にアジアとヨーロッパでさまざまなアート・ワークショッ プを開催し,「キッズゲルニカ国際子ども平和壁画プロジェクト代表」でもある。

